[ シュタフィルVIEW -vol.1- 阿曽沼飛昂 ]
私たちシュタール・フィルの演奏会には、ゲストの皆様のほかにも、普段は会社や学校で働き、主に週末に演奏活動を行う"アマチュア音楽家"も数多く出演しています。
そんなバラエティー豊かな出演者を紹介するために、今年2月の演奏会の前からゲストや団員へのインタビューを行って来ました。今後は新たに "シュタフィルVIEW" と銘打って、出演者のみならず、色々な形で私たちを支えてくださっているサポーターの方々の素顔にも迫っていきたいと思います。
"シュタフィルVIEW" 記念すべき第1回は、12月1日のコンサートで一曲目に演奏する「プロメテウスの創造物 序曲」を指揮する阿曽沼飛昂(あそぬまひだか)さんです。阿曽沼さんはシュタフィルの常任指揮者であり、演奏会では解説もする、名物司会者でもあります。どうぞお楽しみください!
今回の演奏会は、今年2月の演奏会に引き続き、いわゆる「古典派」と呼ばれる曲を取り上げていますね。演奏会には「古典inクラシック」という副題も付けられていますが、この「古典inクラシック」とは、どのような意味合いなのでしょうか?
クラシック音楽と呼ばれるジャンルには「古典派」に分類される作曲家がいます。17世紀後半から18世紀前半に活躍したハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンは古典派の代表的な3人の作曲家です。これら3人の作曲家が古典派と呼ばれる所以は、彼らがその後の多くの作曲家に影響を与える「型」を作ったからです。
伝統芸術というのはどんな分野でも型が存在すると思います。芸術家はその型の中で表現をします。時にはその型を破ること(型破り)もあるわけですが、それもあくまで破る型があることが前提です。
クラシック音楽の歴史は、その後「ロマン派」の時代へと進みますが、ロマン派の音楽家の多くは、古典派が確立した型を発展させて、時にはその型を破りながら作曲をします。このシリーズはそんな古典派に焦点を当てた音楽会となっています。
なるほど。クラシック音楽にも他の伝統芸術同様に型がある、というのは意外と一般の人は知らない気がします。
そうですよね。モーツァルトとか、みんな作曲家自体は知ってるのに、古典派としての功績なんて知りませんよね。そういうことを知ってもらおう、という企画です。
ちなみに古典は英語で「クラシック」なので、英語で言うとクラシック in クラシック音楽となります。そのゴロのよさも面白いなと思って、シリーズのタイトルにしました(笑)。「古典」と聞くと身構えてしまう人も多いと思うのですが、このコンサートを通じて古典派の音楽を知ることで、よりクラシック音楽を身近に楽しんでもらえたらと思っています。
クラシック in クラシック…だんだん「クラシック」の意味がよくわからなくなってきました…。
そうですよね、クラシック音楽の定義って非常に難しいと思います。文字通り「古い音楽」だと思われていることが多いのですが、クラシック音楽の中には現代音楽なんてジャンルもあります。現代音楽 in クラシック(古い)音楽ってなんやねん…と混乱する…(笑)。
クラシック音楽の定義ってあるんでしょうか。阿曽沼さんはどう考えていらっしゃいますか?
色々な定義があっていいと思うのですが、私はクラシック音楽の定義は「譜面を元に再現されることを前提に書かれている音楽」だと思っています。例えば私たちに馴染みのあるポップスって、基本的には1人の歌手が歌うために描かれていますよね。カラオケでいろんな人が歌うじゃないか、と思うかもしれませんが、歌う時に皆さん見てるのは歌詞で、譜面ではないですよね(笑)。みんな、歌手が歌っているのを聞いて、それがなんとなく正解として頭の中にあって、それになぞって歌う。
一方でクラシック音楽というのは、どんな時代に書かれたものであれ「譜面」がその中心にあります。何百年も前に作曲された曲を私たちが演奏できるのは、耳で伝え聞いているからではなく、譜面から音楽を再現をするからです。逆に言えば、同じ譜面でもそれをどう解釈するかで異なった演奏になります。どの演奏が正しい、とも言えない。正解がないのもクラシック音楽のおもしろいところです。そんなクラシック音楽の奥深さをみなさんと共有できたらと思っています。
(今年2月の古典シリーズ vol.1の様子)
なるほど、譜面がとても重要な役割を果たしているんですね。ありがとうございます。
さて、話は変わりますが、前回のインタビューでも少し触れていた普段のお仕事について、伺いたいと思います。今回のチラシを見ると、今までのプロフィールには書いていなかった、「東南アジア案件に従事しながら、」という言葉が出てきます。インサイダー情報にならない範囲で、どのようなお仕事か教えてください!(笑)
普段は大阪ガスという会社でサラリーマンをやっています。この4月まではエンジニアとして、水素やバイオマスといった再エネ関連技術の開発をしていましたが、異動をして、今は資源海外事業部東南アジア部という部署で東南アジアのエネルギーに関するビジネスに従事しています。大阪ガスと聞くと「大阪でガス」と思われがちですが、実は海外でもたくさんのビジネスをやっています。私の部署でいうと、最近ベトナムの工業地区にガス供給するビジネスや、タイでの太陽光発電ビジネスを始めました。海外での仕事は刺激も多く、日々楽しく仕事をしています。
すごい!何だか、とてもグローバルですね!お忙しそうですが…。
阿曽沼さんの中ではお仕事と音楽活動、全く違うことをやっていることで何かよかったことなどありますか?
僕のやっている「ビジネス」と「クラシック音楽」は全く違うものとして認識されることが多いです。それは多くの人がビジネスをマニュアルに沿って行うオペレーションのようなもの、音楽を新しいことをする創造的なもの、と捉えているからかもしれません。もしくは、仕事=思考・論理、音楽=知覚・直感という認識を持たれているからかもしれません。
ただ、私はあまりこういった分け方でこの二つを見ていません。音楽は当然のことですが、仕事も私にとっては極めて創造的なものであり、どんなにちゃんとしたマニュアルがあって淡々とそれをこなすだけにみえる仕事であっても、そこでクリエイティビティを発揮して、より良い結果を出すことができると思っています。これはまさに先ほどの話にあった「伝統芸術の型」と同じ話ですね。
また右脳、左脳の分類で言えば、どういう形であれ、人を相手にしている以上、ビジネスマンにとっては、論理性だけでなく感性も非常に大切な要素だと思います。最近「なぜ世界のエリートは『美意識』を鍛えるのか」という本がベストセラーになっていましたが、ビッグデータ解析やAIの発達に伴って、ビジネスシーンにおける人の感性的な能力は、今後ますます重要になっていくと思います。
確かに…最近よく「ビジネスマンも感性が重要」って言われますね…。
ですよね。これまでビジネスマンといえば論理性こそがバリューを出す源泉である、というトレンドが長く続きましたが、今、それとは違う流れが起きていると思います。
さて、一方でクラシック音楽では先ほどご説明した通り「譜面」をどう読み解くか、が重要です。この作業には多分に論理性が求められます。もちろん音楽を「感じる」ことも非常に重要ですが、譜面上の様々な記号から作曲家の意図を読み解き、再現する作業は左脳的作業です。譜面を前にウンウンうなっているのは、論文を読んだり財務諸表を読んだりすることとそこまで違いがないと思います。
なるほど。再現するときにただ感じるだけではなく、考えることも大事なんですね。
だと思います。
その上で、当たり前ですがビジネスとクラシック音楽には、違う点もあります。例えばアウトプットの方法が異なりますよね。ビジネスシーンにおいては「言語・数字」を媒体としてアウトプットを出すことが多いですが、演奏の際には「音」を媒体としています。仮に同じことを伝えたくても、異なる媒体(メディア)を用いることで、違った世界にみえるということはよくあることですし、両方を使うことでより理解が深まるものだと思います。
この点、シュタフィルの演奏会では、必ず演奏する曲の解説を行います。もちろん言語で表現できない世界を音楽が表現できる、ということは多々あると思いますが、私としてはクラシック音楽を音と言語という違ったメディアを通じて捉えてもらうことで、より深く楽しめるんじゃないかと思っています。
なるほど..なんだか、12月の演奏会が今から楽しみになってきました。最後に、今回の演奏会の一番の見どころを教えてください!
今後、他の方のインタビューで、多くの人が今回演奏する曲について言及すると思うので、私からは違った面でアピールしますね(笑)。
まず、今回は芸術監督大山平一郎とシュタフィルの2度目の演奏会です。より満足度の高い演奏をお約束いたします。
また、前回同様、今回も演奏会中に全ての曲を解説いたします。それに加えて、今回は事前に解説ムービーを作成・公開しようと思っています。古典というととっつきにくいイメージがあるかと思いますが、事前に解説を見ていただくことで、壁を感じることなく演奏会に来ていただけたらと思います。
最後に、今回も素晴らしいゲストの方々に出演いただきます。特にピアニストの酒井さんは先日CDデビューされ、テレビにもたびたび出演されている、現在大注目の若手ピアニストです。ぜひお見逃しのないよう、お越しいただければ幸いです!
(今年6月のファミリーコンサートでの解説の様子)
本日はどうもありがとうございました。阿曽沼さんもイチオシ、酒井有彩さんにも、今後密着取材を行いたいと思いますので、是非お楽しみに!
〜さて、"シュタフィルVIEW"、次回は、毎回ステキな絵を描いてくださっている、野村佳代さんに迫ります〜
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